呉服屋の若旦那に恋しました
『いいか衣都、俺は未来が見えるんだ』。
あれはいつの話だったろうか。
まだ6歳くらいだったかな……私は、中学生の志貴に、いっつもしょうもない嘘をつかれてた。
幼かった私は、志貴の言うことを全部信じていたと思う。
『本当にい? 志貴兄ちゃん凄いなあ』
『だから今日風邪を引いて遠足に行けなかったくらいでしょげるな。俺の未来予想だと、もし衣都が今日遠足に行ってたら、バッタに追いかけまわされて泣いてたんだぞ』
『ええーっ、本当にー?』
『本当だ。それに今日は雷もくると予知している』
『えっ、雷やだー!』
……私の思い出には、いつも志貴がいる。
何を思い出すにしても、そこに必ず志貴がいる。
私にとっての志貴が、どれだけ昔から、どれだけ大きな存在だったか、思い出を振り返るたびに実感する。
「じゃあ、そろそろ行くから、お粥ちゃんと食べなさい」
「はーい」
「あと、テレビばっかり観ないでよく寝ること」
「はーい」
「なんかあったら店の電話にかけること」
「志貴お母さんみたい」
「自分で言ってて今思った」
「ふふ」
私が笑うと、突然視界が暗くなり、頬に手を添えられてキスをされた。