呉服屋の若旦那に恋しました


「行ってくる」


唇が離れた後、彼はそう囁いて、最後に私のおでこに小さなキスを落とした。

彼が部屋からいなくなり、玄関の戸が閉まる音を聞いてから、私は顔を両手で覆った。


「っ……う」


声を押し殺して涙を流した。

この幸せがたとえ崩れても、向き合わなければいけないと思った。

少なくとも志貴は、まだ私に話していないことがある。

聞かなければならないことがある。

これから先、志貴と一緒に居たいなら、この問題と向き合わなきゃいけない。



『俺は未来が見えるんだ』。



志貴、もしそれが本当なら、私達の未来はどうなってる?

お願いだから、教えてよ。

私は、未来の志貴の隣に、ちゃんといる?



私はそのまま、泣き疲れていつのまにか眠ってしまった。

夢の中には、幼いころの志貴が出てきて、私のことを必死に看病してくれていた。


そう言えばあの時、寝こんでいる私に中学生だった志貴が何かを言っていた気がする。

私は夢の中に落ちる寸前で、あまりその言葉を聞き取れなかったが、あの時志貴は一体なんて言ってたんだろう。



< 166 / 221 >

この作品をシェア

pagetop