呉服屋の若旦那に恋しました



――――無理だよ。

私にはとても、そんな覚悟は無いよ。確かめるのが怖いよ。向き合いたくないよ。

このまま何も知らないふりをして、志貴と一緒に過ごしていきたい。

でもそれは、もしかしたら志貴の本当の幸せを潰してしまうことになるのかもしれない。

志貴を、縛り続けていくことになるのかもしれない。




………また1つ、きつく閉じていたはずの記憶のふたが、開いた。


私、本当は気付いてた。

ずっと、ずっとずっと、前から。

お母さんがどんな理由で事故に遭ってしまったのかを。

幼いながらに、私は中々勘が鋭かったのかもしれない。

でも、父や親戚、周りの大人全員が、まだ“子供”である自分に、あまりに残酷な事実を言わないように隠していたことも、気づいていた。

だから、気づいていないふりをし続けていた。


志貴と、今まで通り仲良くしていたかったから。

きっとお母さんも、私と志貴の関係が崩れたら悲しむだろうから。

私が気づかないふりをしていれば、それでいいのだと思っていた。

でも、違った。

私がずっと気づかないふりをしている間に、志貴は隣でずっと苦しんでいたのかもしれない。

私を見るたびに、罪を思い出していたのかもしれない。



ねぇ、志貴、未来が見えるならはやく教えてよ。

志貴が1番幸せになれる道は、いったいどれなの?



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