呉服屋の若旦那に恋しました


「今日は俺が化粧をするけど、次回からは自分でやれよ。衣都はセンスが無いから、髪飾りだけは俺が毎日着物に合う奴を選んでやる。あと化粧台も、衣都の部屋に移しておくから」

「う、うん」

「そうだ、朝食ももうできてるから、汚さないように食えよ。今日は時間が無いから色々順番が狂ったけど」

「う、うん」

「衣都本当に分かってんのか?」

「う、うん」

「目あけて、上見て」


男の人だから緊張しているのか、それとも志貴だから緊張しているのか……。

志貴に言われた通り、瞼を閉じたり開けたりした。

志貴とできるだけ目が合わないようにした。志貴の真剣な顔が、鏡越しで少し見えただけでドキッとしたから、実際に目が合ってしまったら、かなり動揺してしまうと思う。


「衣都」

「はい」

「口閉じて」


志貴が、くいっと顎を人差し指であげた。

唇を、柔らかい紅筆が何度も撫でる。

志貴の視線で、体温があがってしまいそう。志貴は昔から人を緊張させる何かを持ってる。


「衣都、頼むからそんなに緊張するな」

「ぶ」

「こっちまで緊張するわ」

「だ、だって男の人にお化粧してもらうことなんて滅多にないもん……」

「まあそりゃそうだな」

「そうだよ」

「できた。目開けてこっち見て」

「え」

「よし、完璧だ」


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