呉服屋の若旦那に恋しました
ずっと俯いていた志貴が、声を荒げた。私は一瞬びくっと肩を震わせた。志貴の瞳は、必死そのものだった。
「それは絶対に違う。信じて欲しい」
「……でも志貴は、私に会うことが、怖かったんでしょう……?」
「……」
「私を見るたびに、思い出して辛くなったでしょう……?」
その問いかけに、志貴は言葉を失った。
どうしようもない沈黙が流れた。もうどうすればいいのか分からなかった。
そんな凍てついた空気を、志貴が破った。
「……怖かったよ…それは否定しない。事実を知ったら衣都に恨まれるのは当然だって思ってたし、衣都を見る度に、まだこんなに小さい子の母親を奪ってしまった罪悪感で死にたくなった」
志貴が、片手で顔を覆った。
彼の声がこんなに震えているのを、私は初めて聞いた。
「でも、俺は衣都が」
「……美鈴さんから聞いた。衣都に対しての恋愛感情は、情も入ってるかもしれないって志貴が言ってたって……、それは、本当なの?」
「……」
「本当なの? 志貴」
……嘘だよって言ってよ。
そんなんじゃないって言ってよ。
嘘でも違うって言ってよ。ねぇ、志貴、嘘は得意なんじゃなかったの?
「1つも入ってないって言ったら、それは嘘になる」
志貴の言葉が、私の中の何もかもを暗くさせた。
もうこれ以上、彼の言葉を聞きたくない。逃げたい。そう思った。
そう思ったら、もう言葉が止まらなくなってしまった。