呉服屋の若旦那に恋しました
「無理だよっ……、志貴から優しくされるたび、胸の中が苦しくなるっ……」
「………」
「きっとこの先もっと、お互い苦しくなるっ……」
「……何でそう思うんだ」
「どうして4年間会えなかった理由を私に言えないの?」
「……それは……」
「……だって、志貴の私に対する愛情は、自然じゃないよ! そんな風に愛されても、償うために優しくされても、虚しいだけで私はちっとも嬉しくないよ!」
―――言葉にしてハッとした。
自分が今、どれだけ彼を傷つける言葉を言ってしまったのか、言葉にしてから気づいた。
私は、自分の口を手で押さえ、恐る恐る志貴を見上げた。
怒りと悲しみが煮えたぎった瞳で、彼は私を睨んだ。
「衣都がそう思うんなら、もう、それでいい」
「志貴……」
「もう離れてもいいよ。俺から。衣都が俺といて苦しいなら、仕方ない」
「………」
「でも、俺がどんなに衣都を好きなのか……その思いまで勝手に嘘だと決めつけて踏み躙るのは許さない」
「っ……」
「衣都は、信じてくれないんだな……俺が、嘘をつきすぎたからか…」
志貴の、こんなに苦しそうで切ない表情を、私は、生まれて初めて見た。
こんな顔をさせてしまったのは自分だと思うと、もう胸が粉々に引きちぎられてしまいそうだった。
……いつかの、志貴の言葉が蘇る。
“俺は、特別衣都に優しくしたつもりはない。優しくしようとして優しくしたことなんか、一度もない”。
“俺は、ただ単純に、衣都が大切だったから、手を繋いでいたかったし、入学式にも全部出たかったし、衣都の成長をずっと見守っていたいと、そう思った。全部自分の意思でしたことだ”