呉服屋の若旦那に恋しました
―――――もし、許されるのなら、今言ったことは全部嘘だと言って、あなたが好きだと声が枯れるまで言いたい。
好きだよ志貴。
本当に、心の底から、そう言える。
あなたは、間違いなく一番大切な人。
だからこそ、幸せになってほしい。
あの日記を見なくても、きっといつかこの時が来た。
もう後戻りできないくらい二人の間に溝ができてしまった。
このまま、もう会うことは無くなって、
志貴は結婚して、子供もうまれて、私の知らない志貴になっていく。
きっとそれが、一番“自然”なんだ。
きっとそれが、一番“正解”なんだ。
「今までありがとう、志貴……」
私は、薬指にはめてあった指輪を、志貴に返した。
彼は、黙ってそれを受け取り、真珠みたいに美しい涙を一粒流した。