呉服屋の若旦那に恋しました
1年間の約束
……あれから約3ヶ月が経ち、季節は春を迎えようとしていた。
私は、木内先生に紹介してもらった研究所で、ほんの少しだけどお仕事を手伝わせてもらっている。
もちろんお給料は貰えないので、バイトをしつつ研究を手伝う日々。元々実験は嫌いではなかったので、毎日とても刺激的で貴重な体験をさせて貰っていると感じている。
おばあちゃんはいいよって言ったけど、バイト代の何割かをおばあちゃんに宿泊代として渡した。
そんな忙しい日々を送っているうちに、徐々に志貴のことを思って泣かないようになった。
「衣都ちゃんお料理上手になったね」
「一応東京で一人暮らししてたからね」
「凄く美味しいわ。ねぇ、藍ちゃん?」
今日は珍しく皆休日の日曜日。
藍ちゃんとおばあちゃんと私の3人で、久々にゆっくりとお昼ご飯を食べていた。
「うん、美味しい」
久々に再会した藍ちゃんは、なんだかこんな言い方妹がしたらおかしいかもしれないけど、凄く丸くなっていた。
私の記憶だと、いつも部活帰りに溜息をついたり、お父さんに対しても凄く反応が薄かったり、あまり自室から出てこなかったり……そんなイメージが強かったので、私と同居することを快く許してくれたことには驚いた。
長い前髪を両耳にかけて、鎖骨の高さにきっちり切りそろえられた黒髪。お母さんに似て色白だけど、目元はきりっとしていて、とてもしっかりした女性に見える藍ちゃん。
看護師として毎日忙しく働いているらしい。
藍ちゃんと会うことは本当に久々だったし、年も9つ離れている。だから少し緊張したけど、彼女は私が思うよりずっと温かく私を迎え入れてくれた。
まさか私が作った料理を、藍ちゃんが美味しいと言って食べてくれる日が来るなんて…。
なんだかそのことにじんとしていると、藍ちゃんが静かに箸をおいた。
「あのね、ちょっと報告があるの」