呉服屋の若旦那に恋しました
……あ、駄目だ。
やばい、涙でそう。
私は慌てて起き上がり、目をごしごしと乱暴にぬぐった。
少しでも気を抜くと、志貴が恋しくなってしまう。
「衣都、ちょっといい?」
と、そのとき、控えめなノック音と共に、藍ちゃんの声がした。
藍ちゃんが自ら私の部屋を訪ねるなんて珍しい……。
私は全然良いよ、入って、とベッドから返事をした。
「入るね」
藍ちゃんはそう言って、小包らしきものを持って、部屋に入ってきた。
そして、ベッドに座っていた私の隣に、すとんと座った。
「衣都に、渡すものがあるの」
「え、私に……?」
「志貴君から、預かってきたの、これ……」
「え」
藍ちゃんの口から、初めて志貴の名前を聞いて、私はドキッとした。
志貴から……?
藍ちゃんは、小包をそっと私に手渡した。辞書ほどの重さのある、四角い小包だった。
「なんで……、どうして今頃になって……」
「私が、預かってきたの」
「え」
「どうしても衣都に見て欲しくて、私がお願いしたの」
藍ちゃんが……?
私は益々困惑した。
だって、藍ちゃんと志貴の仲は良くなかった筈だ。それでも志貴にお願いしてまで、私に見せたかったものって、一体なんだろう……?
藍ちゃんに目を向けると、彼女は、暫し俯いて、何かを考え込んでいるような表情をした。それから、ひとつ決心したように、私の手を握った。