呉服屋の若旦那に恋しました
残されたのは、志貴の過去、20冊分。
私は、ベッドの上で正座をして、恐る恐るノートを手に取った。
表紙は印刷が擦りきれて、紙は日焼けして黄ばんでいる。
湿気を帯びた独特なにおいがするその日記を、私は深呼吸をしてから、そっと開いた。
『4月7日 月
今日は衣都の入学式でした。
ランドセルを背負った衣都は、とても嬉しそうでした。
衣都は不安がっていましたが、きっと衣都なら沢山いいお友達ができると思います。』
『9月25日 土
今日は衣都の運動会でした。
走って転んでしまったのに、衣都は泣きませんでした。
幼いころはちょっと転んだだけで泣いていたのに…』
『8月17日 水
今日は衣都と夏祭りに行きました。
はじめてちゃんと浴衣を着付けてもらって、喜んでいました。
俺も衣都と浴衣で遊びに行けて、凄く嬉しかったです。』
『4月1日 火
今日から衣都は中学生になります。
一気に大人っぽくなって少し驚きました。
どの部活に入るか相当悩んでいました。』
『10月22日 月
衣都が家を勝手に抜け出しました。
隆史さんと必死に探して、無事見つけました。
とにかく、無事に見つかった良かったです。本当に。』
『7月2日 水
衣都が、志望校を決めたそうです。T校だそうです。
まだ隆史さんには言えてないようですが……衣都なら必ず受かると思います。
次の模試までに、苦手分野を徹底的に教えこもうと思います。』
『4月 8日 月
衣都は無事に今日から高校生です。
衣都の高校生活を邪魔しないためにも、今日から衣都離れをしなくては……。』