呉服屋の若旦那に恋しました
どのノートの、どのページを開いても、私の事ばかり書いてあった。
「どうして、私のことばっかり……っ」
それはまるで、天国にいるお母さんに、私の成長を報告するかのような書き方だった。
……志貴は、こんなに優しく私を見守り続けてくれていたんだ。
私が生まれてから、ずっと。ずっとずっと。
それなのに私は、あんなに酷いことを言った。
志貴のことを信じてあげれなかった。
志貴の話を聞いてあげれなかった。
私は、なんて言った?
こんなにも真っ直ぐな愛情で、私を包み込んでくれていた彼に、誰よりも大切な彼に、あの時なんて言った……?
“……だって、志貴の私に対する愛情は、自然じゃないよ! そんな風に愛されても、償うために優しくされても、虚しいだけで私はちっとも嬉しくないよ!”
「ごめんっ、ごめん、志貴っ……ごめんなさ……っ」
彼の優しさを、私は、“虚しい”とまで言った。
こんなに、こんなに私を守り続けてくれた彼の優しさを。
とめどなく涙が零れ落ちた。嗚咽まじりの泣き声が、部屋に響いた。日記に、いくつもの透明な涙のあとができた。
私は、ページを飛ばして、私が東京へ行くことになった前日の日記を見た。
…そこには、たった2行、こう書かれていた。
『衣都が、誰よりも幸せでありますように。
隣に俺がいなくても、衣都が1番幸せになれる道を、ちゃんと自分で選べますように。』