呉服屋の若旦那に恋しました
 


どのノートの、どのページを開いても、私の事ばかり書いてあった。


「どうして、私のことばっかり……っ」


それはまるで、天国にいるお母さんに、私の成長を報告するかのような書き方だった。



……志貴は、こんなに優しく私を見守り続けてくれていたんだ。



私が生まれてから、ずっと。ずっとずっと。

それなのに私は、あんなに酷いことを言った。

志貴のことを信じてあげれなかった。

志貴の話を聞いてあげれなかった。


私は、なんて言った?

こんなにも真っ直ぐな愛情で、私を包み込んでくれていた彼に、誰よりも大切な彼に、あの時なんて言った……?




“……だって、志貴の私に対する愛情は、自然じゃないよ! そんな風に愛されても、償うために優しくされても、虚しいだけで私はちっとも嬉しくないよ!”




「ごめんっ、ごめん、志貴っ……ごめんなさ……っ」


彼の優しさを、私は、“虚しい”とまで言った。

こんなに、こんなに私を守り続けてくれた彼の優しさを。

とめどなく涙が零れ落ちた。嗚咽まじりの泣き声が、部屋に響いた。日記に、いくつもの透明な涙のあとができた。


私は、ページを飛ばして、私が東京へ行くことになった前日の日記を見た。

…そこには、たった2行、こう書かれていた。






『衣都が、誰よりも幸せでありますように。

 隣に俺がいなくても、衣都が1番幸せになれる道を、ちゃんと自分で選べますように。』





< 184 / 221 >

この作品をシェア

pagetop