呉服屋の若旦那に恋しました



と、その時、枕元に置いていた携帯が震えた。

もしかして、志貴……?

私はゆっくりと携帯を手に取った。……そこには、中本康子と表示されていた。


「も、もしもし?」

「衣都ちゃん!? 元気やった?」

「中本さん……っ」

「どうしたん、元気ない声出して」


久々の中本さんの声に、驚きながらも私はひどく安堵した。

中本さんもなんだか少し泣きそうな声をしていて、思わず胸の中がぎゅっと苦しくなった。

私は、なんとか心を落ち着けて、疑問に思っていたことをぶつけた。


「どうしていきなり電話をくれたんですか……? 凄く嬉しいですけど…それに今日、お仕事は……」

「……今日ね、巣鴨さん……美鈴さんがお店にいらして、その時丁度店内に私しかいんくてね……」

「え、美鈴さんが……?」

彼女の名前を聞いただけでドクン、と胸が脈打った。

「衣都ちゃんに、伝えておいて欲しいことがあるって……志貴さんのあの言葉には続きがあるってことを」

「え……あの言葉……?」

私は、どの言葉の続きのことを言っているのか、考えをめぐらせた。

けれど、情という言葉を聞いたとき、すぐにあのことだと理解した。


「……美鈴さんの言うように情も入っているのかもしれませんが、情がわいてしまうような出来事を抜きにしたとしても、衣都を愛していたと思います」


中本さんの口から、志貴の言葉の続きが語られた。

私は、それを聞いた途端、受話器越しに泣き声が伝わらないように、口を手で覆った。


「そう言ってたってことを…衣都ちゃんに伝えて欲しいって……本当に申し訳ないことをしたと……、今の志貴さんを見て、凄く反省したらしいんよ」

「今の志貴……?」

「……衣都ちゃん、帰ってきてあげて。衣都ちゃんがいんくなってから、志貴さんの瞳は毎日暗いままやし、五郎ちゃんも遊び相手がいなくていつもつまらなそうやし、店内に志貴さんと衣都ちゃんが言い合ってる声が響かんと、私、寂しくて仕方がないんよ……っ」

「中本さん……」

「お願い。帰ってきてや、衣都ちゃんっ……」

「っ……」

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