呉服屋の若旦那に恋しました
「だって俺が作ったとか言ったら、美味しいって言わなきゃいけないとか、お前もプレッシャーかかんだろ」
「……そ、そんな理由で……?」
「十分な理由やろが」
「……」
「ちなみに趣味でフードコーディネーターの資格も取った」
「極めすぎだろ!!」
思わず本日1の鋭い突っ込みをしてしまった……。
この男は、厳しいくせに、本当に当然のごとく私を大切に扱ってくれる。
優しいんだか、怖いんだか、気難しいんだか、紳士なんだか、いまだによく分からない。
唯一分かってきたのは、未だに嘘だと分かっていない志貴につかれた嘘が、まだこの先も沢山出てきそうだということ。
「よし、じゃあ朝食を食べたらこのタイムスケジュール通り働いてもらうからな」
「ちょっと緻密過ぎないですかそのスケジュール……」
なんだかそのうちとんでもなくでっかいことも、
あ、それ嘘だよ、とケロッと言ってきそうで、
私はとても怖いです。志貴さん……。
「あ、そういや待って衣都」
「え?」
ちゅ。
タイムスケジュールに震えていると、志貴がいきなり私のうなじにちゅっとキスをしてきた。
「よし、行くか」
「……………は?」
思い切り石と化している私を、振り向きもせずに志貴は部屋を出ていこうとした。
「な、なんですか今の……」
「いやだって頬にしたら化粧崩れるやろ」
「そこじゃないよ私が聞きたいのは!!」
「なんだよ朝からうっさいなあ~、最近の若い娘はすぐギャーギャー騒ぐ」
「騒ぐよそりゃ!!」
―――誰か、この男の取り扱い説明書をください。
この、
優しいんだか、怖いんだか、気難しいんだか、紳士なんだか、いまだによく分からない、浅葱志貴という男の説明書。
……私はあと何十年この人と一緒に暮らそうが、
この男を知り尽くすことはできないと、
そう断言できるのです。