呉服屋の若旦那に恋しました


「志貴のそばに、いたいっ……」

彼女は、まだぽろぽろと涙をこぼしながら、そう訴えた。

「……2回も俺から離れたくせに」

「い、1回目は志貴が離れたんじゃん」

「指輪をやっと受け取ったと思ったらまた返すし」

「うっ……」

「出て行ったと思ったら泣きながら帰ってくるし」

「……ごめんなさい」

「もう許さへん」

「……」

「もう、俺から離れたら、許さへんからな」

「うんっ……」


俺の言葉に大きく頷いて、衣都が俺の手をぎゅっと握りしめた。

俺は、そんな彼女の瞳を見つめて、こつんとおでこを合わせた。

それから、ゆっくりとこう告げた。



「結婚しよう、衣都。ずっとそばに、いてください」



――――きっと最初から結ばれていた。

俺と衣都の赤い糸は、ずっとずっと前から、結ばれていた。

途中で絡まったり、糸の結び目がゆるんだりもしたけど、俺はずっと、この指の先には彼女がいると、信じていた。


嘘つきな俺が言うと、説得力が無いかな。

でも、本当なんだ。

この気持ちに、ひとつの嘘も混じっていない。

もう、ここには、真実しかないよ。


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