呉服屋の若旦那に恋しました
「よろしく、お願いしますっ……」
そう言って、子供みたいに泣きじゃくる彼女に、俺はもう一度口づけをした。
涙でしょっぱくて、それがおかしくて、ふたりして笑った。そしてまた、唇を重ねた。
何度も。
何度も、何度も。
幸せすぎて、もうなんだかおかしくて、泣きながら笑ったんだ。
……ふふ、笑ってるわ、衣都。
薫さん、意外と重いんやね赤ちゃんって。
ふふ、でしょう?
なんで衣都って名前にしたん?
人は1人じゃ生きていけないでしょう? 必ず誰かと繋がって生きてる。そんな風に、この子を守ってくれる人、愛してくれる人との縁が、糸が、永久に紡がれていきますように。そう願って、つけたのよ。
………。
志貴君も、今繋がったわね。この子との糸。
どうして?
今、とっても大事そうに衣都を抱えてくれてる。この子を、大事に扱ってくれてる。衣都もそれを分かってるから、今こんなに笑ってるのよ。
―――薫さん、桜、俺はこの人と、一緒に幸せになることを決めました。
天国から、見えるでしょうか?
この誓いは、空の上まで、届くでしょうか?
雪柳は、今年も満開に咲きました。できれば天国にも、この美しい花弁を届けたいです。
でもそれは少し無理そうなので、毎年地上から、報告することにします。
もし、俺と衣都の間に、新しい命が宿ったら、春には必ず家族でこの雪柳の前で写真を撮ります。
そのシャッター音が、春が訪れた合図なので、良かったら、雪柳を見に来てください。
春だけと言わず、季節ごとに雪柳は美しく色を変えるので、シャッター音が空に響いたら、ぜひ浅葱家へ来てください。
心より、待っています。