呉服屋の若旦那に恋しました
突然の質問に、私は少し動揺した。
子供にそんなことを聞かれる日が来るとは……。なんだか最近とくにませてきた気がしてならない……。
私はうーんと唸りながら、なんと説明したらいいのか考えあぐねていた。
志貴と結婚した理由なんて……とてもじゃないけど言葉では説明しきれない……。
「ママがパパに一目ぼれしたんだ。そりゃあもう毎日猛烈にアタックしてきて……」
「えーっ、そうなのー!?」
「雪花、パパ嘘つきなの知ってるよね?」
「えー、また嘘なのー?」
志貴がまた適当なことを言ったので、私は真顔で否定した。
雪花は、またしょうもない嘘をついた志貴のことをぽかぽかと殴っていた。
「よし、やっとできた。ささっと写真撮るぞ」
そんな他愛もないことを話している隙に、志貴はするすると雪花の着付けを完ぺきに終わらせた。
私は、用意していたカメラを持って、雪花と手を繋いで縁側を降りた。
志貴が三脚を用意して、私が持っていたカメラを設置した。
「もっと右、そう、そこ」
彼が、カメラ越しに私たちを見て、位置を指示した。
背景は、もちろん美しく紅葉した雪柳の前。
……“雪花”という名前は、ふたりで決めた。
優しく舞い落ちる雪柳の花弁のように、降り積もった愛のもとに生まれた子だから。
「撮るよ、動くなよ雪花」
「はいっ、動きませんっ」
志貴がタイマーを設定して、私と志貴で雪花を挟むように並んだ。
シャッターの音が秋の澄んだ空に響いた。