呉服屋の若旦那に恋しました
「もう動いていーい?」
雪花が、もう早速我慢できないと言うように尋ねた。
志貴は、そんな彼女の頭を撫でて、もういいぞと笑った。
彼女はそう言われるやいなや、五郎の元へ駆け寄った。志貴はすかさず着物を汚すなよと声を荒げて注意した。
「幼い時の衣都を見ているようだ……」
「そっか、志貴はじゃあ子育て初めてじゃないんだねっ」
「本当だな……」
志貴が疲れたように乾いた笑いを溢して、縁側に座った。
私もそんな彼の隣に座って、雪柳の前で五郎と遊ぶ雪花を見つめた。
「もう雪花も7歳かー」
「あっという間だねー」
「そう言えばこの間穂乃花ちゃんのママが浅葱屋に来てくれたけど、8歳も離れてるんですかって、驚いてたよ」
「ははは、まあそう考えると志貴が20歳の時に私まだ小学生だからね。犯罪だよね」
「……どうしよう…もし雪花が12歳の時に20歳の男が雪花を誑かしてきたら………」
「ありえないから大丈夫。落ち着いて」
頭を抱えて真剣に悩みだす志貴の背中をぽんと叩いた。
志貴の溺愛ぶりは傍から見たら恥ずかしいくらいなのに、当の本人の雪花にはあまりよく伝わっていないらしい。
志貴の愛情表現の不器用っぷりを、私は改めて感じ呆れていた。
「志貴は本当に不器用だよね、昔から」
「え、俺小学生の時に器用って小谷先生に通信簿に書かれたくらい器用なはずなんだけど」
「いや手先の話じゃなくて」
「……なんだその呆れた目は」
「まあ、そこも好きだから、いいんだけど」
「……」