呉服屋の若旦那に恋しました
あれは今から7、8年前だったかな……結婚をしたその年、かなり遅れたけど……と言って、志貴が誕生日プレゼントをくれた。
私が東京に行く日、彼は確かに“4年分の誕生日プレゼントを用意して待ってるから、4年後、ちゃんと受け取りに来い”と言っていたような気がする。
彼は、ずいぶんと用意するのに時間がかかってしまったと、少し申し訳なさそうに言っていた。
その誕生日プレゼントは私の部屋いっぱいに用意されていた。
……衣桁にかけられた、美しい撫子色の着物。
真っ白な雪柳の花が、足元から咲きほこっていて、肩から裾にかけて一本の赤い糸が描かれていた。
知り合いに頼んで、1から作ってもらったのだと、彼は言う。
私はそれを見た瞬間、正直結婚式の時以上に、泣いてしまった。
そんな私を見て、“衣都の泣き虫は中々治らないな”と言って、彼は優しく笑っていた。
「ママー、パパの涙拭いたよー!」
暫し昔のことを思い出していたが、雪花の声にはっとして、私はハンカチを受け取り雪花を抱っこした。
「ありがとう、雪花」
「だから泣いてないって」
「ふふ、はいはい」
……優しく降り積もる雪柳の花弁のように、
ゆっくりと、今日も目に見えない愛が舞い降ちる。
雪花のまつげに、
あなたの肩に、
私の胸に。
しんしんと。
end