呉服屋の若旦那に恋しました
「ただいまー」
「おかえり雪花! ……あら、いらっしゃい健太君! 今日も来てくれたの?」
仕方なく裏口じゃなくお店の入り口から帰ってやると、健太はお母さんに話しかけられて明らかに顔を赤くしていた。まったく愚かな人間だ。
「衣都さん、あのこれ、うちの母ちゃんが持ってけって」
「え! こんなに素敵なお花を? わあーありがとう! お母さんにぜひ伝えといて」
健太の家はお花屋さんだ。だからいつもそれをだしに使って、お店に出せなくなったーーでもまだ充分に綺麗なお花を持ってきてくれる。
お母さんはお花が大好きだから、いつも本当に喜んでいる。
健太は照れ臭そうにしているが、背後にいる人の存在にまだ気づいていない様子だった。まったく本当に愚かな人間だ。
その背後にいる人物は、健太のはるか上から声をかけた。
「健太君、俺とは随分久しぶりやな。いつも来てくれてたの知らんかったわ」
「うわ出た! 悪い人!」
「悪い人?」
「うちの母ちゃんが言ってた! 浅葱家さんとこの旦那さん、31歳の時に23歳の今の奥さんもらったらしいわよ〜、本当悪い人やわ〜って!」
「何それ地味に傷つくわ」
健太……それはちょっと悪い人のニュアンスが違う。健太が思ってるのは完全に戦隊ものアニメの悪役みたいなイメージだろうけど、多分健太のお母さんが言ってる悪い人ってのは、男の人として少しタチが悪いというか…危険というか……とにかくそういう意味のあれだと思うんだ。
まあこんなことを説明しても彼には理解できないだろう。
お父さんは意外とメンタルが豆腐だから、分かりやすく凹んでいた。お母さんはそんなお父さんを見て鼻で笑っていた。