呉服屋の若旦那に恋しました
「もう俺の知り合いのプランナーが式のことは完璧に決めてくれてるから大丈夫だって。衣都の希望も全部事細かに伝えたし」
「だってもう式のことで頭いっぱいなんだもん」
「衣都も女の子だなー」
「ねえ、マッサージしてあげようか?」
「えなに突然怖いでも願いします」
なんだかやけにご機嫌だな……。
衣都がうつ伏せになった俺の背中の上に乗って、肩を揉んだ。
衣都が結婚式まで伸ばすと言った長い髪が、さらさらと後ろの首に触れる。……衣都の、お風呂あがりのシャンプーの匂いが堪らなく好きだ。
「あーそこ、超気持ちいい」
「こってますねー」
「……結局衣都は誰を呼ぶんだ?」
「高校の友達と大学の友達と先生!」
「高校………」
高校と聞くとあのシーンが蘇る。
今でも思い出すと面白くないが、逆を言えばあの元彼のおかげで自分の気持ちに気づけたのだから、感謝すべきなのだろうか……。
俺が黙り込んで考えていると、衣都は不思議に思ったのか、おーい、と声をかけてきた。でも今はあの時の彼氏の顔を思い出すのに集中していたので、衣都の声を完全に無視した。
確か結構濃いめの顔だった気がする……。もしかして衣都は本当は濃いめの顔がタイプなのだろうか………。だとしたら俺とタイプ真逆やん……。
そんなくだらないことに考えを巡らせていると、無視をされ続けて痺れを切らした衣都が、ばふっと覆いかぶさってきた。