呉服屋の若旦那に恋しました
溺愛のしるし
「え……、志貴君、本当に結婚したんだ……?」
結婚してから5ヶ月、志貴の出張中に来店したお客様が、私の結婚指輪を見てそう呟いた。
志貴とちょうど同い年くらいで、私とも美鈴さんともまたちょっと違うタイプの、癒し系の美女だった。
白い肌に映える紺色のシックなワンピースを着こなして、肩には白のカーディガンをかけている。マロンブラウンの髪の毛は、緩やかにふわふわと巻かれていた。
全く崩れていない化粧や、そんなに晴れていないというのに日傘を差しているあたり、かなり美意識の高い女性だと、なんとなく感じ取った。
お店にくるやいなや彼女は志貴君はいますか? と開口一番にそう尋ねてきた。私と中本さんは一瞬戸惑ったが、志貴は出張中で不在だということを伝えると、彼女は分かりやすく落胆し、手に持っていたお土産を、ほとんどもう仕方ないように私達に渡した。
中に入っていたのは水菓子で、美鈴さんのことを彷彿とさせた。なんで揃いも揃って志貴のファンは水菓子を持って来てくれるのか……。あの人そんなに水菓子好きだったっけ……。
「いつ……ご結婚なされたのですか?」
「え…、あ、つい5ヶ月前です」
「5ヶ月前!?」
私の言葉に、彼女は大袈裟に反応した。
なぜこんな話になったかというと、さっき中本さんが私のことを奥様と呼んだからだ。中本さんは私達のことをそれはそれはもう祝福してくれて、泣いて喜んでくれた。だから、たまにふざけて私のことを奥様と呼んでは、恥ずかしがる私を見てからかってきたのだけど、それがうっかりさっき出てしまった。
いや、別に奥様と呼ばれても何もまずくはないのだが、この状況においては少しまずかった。
奥様という言葉を聞いた途端、その癒し系の美女は、私の薬指を瞬時に見て、顔を青ざめさせた。
なんだか目が、「こんなにまだ若い何も分かっていないような小娘と結婚したの……?」と、言っているようだった。