呉服屋の若旦那に恋しました
「私の娘、丁度志貴さんと同い年なの。会うだけでも、どうかしらねえ……」
「えっ……とー」
「もし今いい人がいないなら、考えてやってくださいませんか?」
「そうですねえ、俺もそろそろ身をかためろって感じですよねハハ」
「そうよね!? じゃあこれ娘の連絡先…、また来ますね、それじゃあ私はこの後御稽古があるので」
「えっ、ちょっと待ってください巣鴨さんそもそも娘さんとはすでにお仕事でお会いしたことが」
巣鴨さんは言葉を最後まで聞かずに、俺にお見合い写真と娘の連絡先を預けてそのまま帰ってしまった。
斜め後ろから衣都のじとーっとした視線が突き刺さっている。
な、なんでこのタイミングかな……。
今までこういうことは何度かあったけど、衣都の前でこういう話をされるのはややこしい。
「志貴その人と結婚すれば?」
「なんてこと言うんだ婚約者」
「写真見せて見せて! うわっ、すごい綺麗な人ー! 着物似合ってるー!」
「着付け教室を開いてるからな……、いいから返しなさい」
「志貴の携帯にこの人のアドレス登録しといたよ。巣鴨美鈴さん30歳フェイスブックもやってたから申請しといた!」
「手際よすぎだろ女子大生怖」
俺は衣都から携帯を取り上げてチョップした。
それから、社員の中本さんに浴衣の着付けをもう一度教えてもらいなさい、と衣都に指示をした。
俺はなんとも対応に困るお見合い写真と連絡先をとりあえず引き出しにしまって、その日の業務を終えた。
「いいか衣都、俺は未来が見えるんだ」
あれはいつの話だったろうか。
まだ6歳くらいだった衣都に、中学生の俺はいっつもしょうもない嘘をついていた。
幼くてまだ純真な衣都は、俺の言うことを全部信じていたと思う。