呉服屋の若旦那に恋しました
「本当にい? 志貴兄ちゃん凄いなあ」
「だから今日風邪を引いて遠足に行けなかったくらいでしょげるな。俺の未来予想だと、もし衣都が今日遠足に行ってたら、バッタに追いかけまわされて泣いてたんだぞ」
「ええーっ、本当にー?」
「本当だ。それに今日は雷もくると予知している」
「えっ、雷やだー!」
衣都が脅えた瞬間、カッと白い光が客間に漏れて、数秒後に小さくゴロゴロと聞こえた。
本当はただの雷注意報を見ただけだけど、衣都はすっかり俺の予知能力を信じていた。
衣都はその日風邪をひいて熱を出してしまっていて、俺が衣都の家まで看病しに行っていた。
衣都のお父さんは今日は遠出の仕事で(どうしても外せない大きな仕事だったらしい)、9つ離れた衣都の姉は、受験勉強の為21時まで帰ってこない。
省三さんに頼まれた通り、俺は部活を休んで速攻で衣都の家に向かった。
敷布団の上で、顔を真っ赤にした衣都が、ふうふうと苦しそうに呼吸をしている姿を見て、胸の奥がぎゅっと狭くなったのを今でも覚えている。
「雷怖いよ……、志貴兄ちゃん」
「大丈夫だ、さっき衣都の家に避雷針ぶっさしといたから」
「ひらいしん……?」
「この家に雷は落ちないよ、衣都」
「ほんまに……?」
「ほんま」
まあ、避雷針とか大嘘だけど。
衣都が今安心して寝れるんだったら、例え嘘がばれてビンタされても全く構わない。嫌われたらいやだけど。
俺は、衣都の布団のすぐそばに寝っころがって、衣都の頭を撫でた。
「志貴兄ちゃん風邪移っちゃうよ」
「俺ん家風邪ひかへん家系なんや」
「え、そうなの?」
「そう、かなり薄まったけど代々魔女の血流れてるから」
「魔女!? 魔女ってあの鼻が長くて毒りんごの」
「ひっひっひ~」
「やー、やだ怖いやめてー!!」
「ハハハいいから寝ろ、寝ないと魔女来るぞ」
「衣都寝るっ」
「良い子や」