呉服屋の若旦那に恋しました
遠くで聞こえる雷の音、真夏の蒸し暑い空気、白い光が暗い部屋にさすたびに、震える小さな手を、ぎゅっと握りしめた。
白Yシャツは、走ってきたから汗くさかった。
だから、あんまり衣都に近寄らないようにしていたけど、怖がりのちいさな衣都が、すり寄ってくるから。
……14歳にして、俺は護るものがあったんだ。
地区大会前の重要な練習試合があっても、塾のクラス分けの重要なテストがあっても、なによりも、衣都が大切だった。
衣都、俺は、未来が見えるんだよ。
ただそれは、衣都の未来限定なんだ。
衣都は、誰よりも、誰よりも、誰よりも、幸せになるよ。
みんなに愛される子になるよ。
俺が、衣都が幸せになる道を、照らしてあげる。
本当は俺もその道を一緒に歩きたいけど、2人で並んで通るには細い道だったら、俺は衣都の後ろを歩くよ。
「……その時衣都は、俺を振り返っちゃ駄目だよ。絶対に……」
すーすーと小刻みに寝息を立てている衣都に、忠告した。
衣都は、あの時の忠告を聞いていただろうか。
俺は、君が決断をする時が来たら、またその忠告をするつもりだ。
自分が一番幸せになる道を決めたら、そこに俺が必要ないのなら、もう二度と俺を振り返っちゃ駄目だよ、と。
何故って聞かれたら、そういう約束だから、としか答えられないけれど。