呉服屋の若旦那に恋しました
「……」
衣都はきっと、心配しなくともその決断をしたら振り返ることなく前へ進むだろう。
残された俺は、ちゃんと自分の道を自分で照らして歩けるだろうか。
もしかして衣都が振り返ってくれるかもと、衣都の背中を見続けて立ち止まったりしてしまわないだろうか。
こうして大きな分かれ道が目の前に現れたとき、進め無くなるのは、俺だけなんだろう。
「志貴ー!」
1人、ぼんやりそんなことを考えていると、前から俺を呼ぶ声が聞こえた。
衣都が、立ち止まり振り返って俺を少し心配そうに呼んでいた。
なんだかその声で、一瞬で我に返った。
「……はいはい、今いく」
そうつぶやいて、俺は衣都と同じ左の鳥居に入った。
暫く歩くと、衣都と五郎がなんか似たような顔をして俺を待っていたので、笑ってしまった。
「なに笑ってるの」
「いや、なんでも」
「なにさらっと手繋いでるの」
「なんだか愛しくなってしまってね」
「………」
「こら、人をその疑心に満ちた目で見るの止めなさい」
「志貴が嘘つきなせいで私はとても疑い深い女になったんだよ……おかげでガードもかたくなり恋人もでき辛いしやっとできた彼氏もマザコンだったし……」
「モテへんのを人んせいにすんな」
「ぐぅ……」
「まあでも、お陰で悪い虫がつかんくて良かった」