呉服屋の若旦那に恋しました


本当だ。私は、とんだ見栄っ張りのひねくれ者だ。

人とずれてるから、弾かれたんだ。



―――いよいよ涙が出てきそうになったその時、クラッチバッグの中で携帯が震えた。

もしかしたら採用の電話かも、と思って出たら、とんでもなく期待はずれな人物の声が聞こえた。


「衣都、ろくに連絡もしてきんと、何をしてるんや!」

「お父さんかよ……」

「なんや失礼な」


お父さんは、不機嫌そうな声をあげた。


「就活はどうなん」

「……全落ち」

「まだ東京にいてるつもりなん?」

「京都には帰りたくない」

「もう諦めて帰ってきなさい!」

「嫌だ! 藍染職人なんか継ぎたくない! とりあえずバイトしながらこっちで資格の勉強して、英語力あげて、って考えてるもん!」

「仕送りは一切出さへんからな!」

「うっ」

「泣き寝入りして帰ってきても家にいれへんからな!」

「ううっ」

「それが嫌ならいいから一遍帰ってきなさい。大事な話がおます」

「……」

「いいですね?」

「はい……」


私は、父のドスのきいた声に脅え、はいと返事をすることしか許されなかった。

傷心の娘に優しい言葉の一つもかけてくれないのかよ!

そう思いながら、私は家に帰って荷物をまとめた。



でも、丁度よかったかもしれない。

もうここ(東京)には、私に何か期待してくれる人は、いなかったから。




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