呉服屋の若旦那に恋しました
私が小学校に入学した時。
何故か志貴は学ラン姿で父と一緒に入学式に出席していた。2人とも号泣していた。
私はなんか気持ち悪いなこの人達くらいにしか思っていなかった。
もちろん志貴はかなり浮いていて、小学校の先生には、授業はどうしたと怒られていた。
「あれ衣都ちゃんのお兄ちゃん? かっこいいね」
でも私は、友達に口々にそう言われたので、あんまり悪い気はしなかった。
因みに志貴兄ちゃんと結婚すると言っていたのはこの入学式が最後であった。
惚れっぽい性格の私は、小学生になった途端たちまち好きな人ができ、志貴を好きという気持ちは恋じゃないということを段々と理解していった。
でも志貴は、高校生になっても、変わらず私を大切にしてくれた。
高校のブレザー姿で授業参観に来た時もあった。お弁当を作ってくれたこともあった。(家政婦につくらせたと言っていたけど)
志貴は、まるでお母さんの穴を埋めてくれるかのように、一緒にいてくれた。
でも、誰しも反抗期があったように、私も志貴に反抗してしまったことがあった。
あれはたしか14歳の時で、志貴は既に大学4年生。
私はその時、生意気にも色恋沙汰に目覚めていて、というか色恋沙汰にしか興味が無くて、とてもませていた。
もう昔過ぎて、謝るタイミングを逃してしまったけれど。
……中学の時付き合っていた彼が、学校でも有名な不良だった。
志貴にはそのことを伝えていなかったけれど、ある夜、中々帰ってこない私を心配したお父さんが、志貴に私を探すようお願いしたんだ。
今思い返すと、心配されて当然だと思う。でもその時の私は子供だったから、夜に抜け出して彼氏と過ごすことが、とてもかっこいいことのように思えていたんだ。
駅裏で彼氏の不良仲間と一緒に屯する。内心はドキドキしてた。怖かった。夜に内緒で抜け出すことなんて、したことなかったから。