呉服屋の若旦那に恋しました
因みに友人たちには内定が取れなかったことは内緒にして、どうしても私が呉服屋に勤めたい夢があったということにしている。
元々プライドが高いし、ハイスペックな友人たちに内定が取れなかったなんて言えるわけが無かった。
「そういえば彼氏と別れたんだって?」
「あ、そうそうやっぱり遠距離になっちゃうからね」
「えー、医大生だったのにもったいない!」
「本当女子ってスペック重視だよなー」
「あはは」
乾いた笑いしか返せない……。本当は無職だからふられただなんて言えない……。
女子2人は銀行員に勤めていて、男子は一人は大手保険会社、もう一人は広告代理店。
皆少し見ないうちに、ずいぶんしっかりしたような気がする……。
会社のブラックな要素を笑って話したり、恋人の話を幸せそうに話したり……。
皆の話を聞いているうちに、自分はまったく話すようなことが無いことに気付いた。
「衣都は日々着物の勉強?」
「そうだね、着付けとか専門用語とかも色々……」
「一人暮らし?」
「ううん、今は店主の家に住み込みっていうか」
「えーいいなあー。こんな素敵な所で好きな仕事できてしかも家賃タダなんて」
友人は私のことを本気で羨ましがっていた。
でも私は、その時何かがちくりと胸に刺さった。
私にしたら、今東京でバリバリ大手で働いているあなたが1000倍羨ましい。
努力が形になったあなたたちが死ぬほど羨ましい。
会社や上司への愚痴を言ってみたいとさえ思うよ。それすら羨ましいよ。