呉服屋の若旦那に恋しました
私は、プライドのかたまりの人間だから。
「ごめん、ちょっとお手洗い……」
……いけない、少し頭を冷やそう。
私は静かに席を立って、化粧室にむかった。
かがみには、完璧に化粧をして着飾った自分が映っていた。
つけまつげをして、高い口紅を塗って、くるくると巻いた髪をハーフアップにした私。
そういえば志貴の化粧は、もっと上手だった。こんなんじゃなかった。
私の顔だちを生かした自然な化粧だった。
こんなに派手な顔にするような化粧じゃなかった。
志貴に頼めばよかったな。
服も、きっと志貴が選んだ方がセンスがいい。
そういや志貴、今、1人で夕ご飯食べてるのかな。
「あ」
色々な考え事をしながら化粧室を出ると、ちょうど出たところに友人の一人である結城君(広告代理店勤務)がいた。
彼は私を見つけると、よう、と微笑んで近づいてきた。
「近衛、トイレ長くね?」
「ごめんうんちしてた」
「うわー」
「嘘だよっ、諭吉君こそうんちでしょ」
「おい、諭吉君言うな!」
「あはは、だっていつも奢ってくれるんだもんー」
「俺のバイト代はお前ら女3人に貢いで消えてったよ……」
「うは、ゴチでーす」
「こら」
結城君が、私の頭を軽くチョップした。
結城君は、お金持ちキャラでいじられてたけど、実際はちゃんとバイトして稼いでて、嫌味も無くて、本当にいい人だなって思ってた。
私達のグループでもいじられキャラで、でもいざとなると頼りになる、皆に愛されている人だった。