呉服屋の若旦那に恋しました


「すごいね広告代理店とか、ますます諭吉キャラじゃん」

「やめなさい」

「モテるっしょ?」

「モテねーわ」

「うそやん」

「近衛は別れたんだな、医大生と」

「んー、色々あってね」

「……ねえ、ちょっと外でない?」

「え、別にいいけどなに?」

「タバコ吸いたいから、付き合って」



結城君って、タバコ吸う人だったんだなー。

お店を出て、一番近いパーキングにやってきた。

私は、車が止まっていない縁石に座って、携帯灰皿を持ちながら煙草を吸う結城君を見上げた。

5月と言えどまだ夜は少し肌寒く、ノースリーブでいるのは少し辛かった。


「寒いなー」

「俺見て言うなよ」

「風邪ひきそうー、その上着欲しいなー」

「………分かったよ、おらよ」

「さすが諭吉君優男……」

「うるせーよクリーニングして返せよ」

「こまかっ」

「冗談だわ」


自然と笑ってしまった。

楽しいなあ。こっちにきて友達と会うことなんか無かったから、本当に楽しい。

ずっと着付けや専門用語の勉強で、最近は料理の勉強もさせられて。

ほとんど志貴の家の中ですごしていたから。

なんだかとても狭い世界でずっと過ごしていた気がするよ。


「近衛が京都に行くって聞いて、正直凄く寂しかったよ」

「なに急にー」

「いやわりとマジに」

「私も東京戻りたいよー」

「……戻ってくればいいのに」

「うーん……」

「東京の方が刺激あるよ」

「……」

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