呉服屋の若旦那に恋しました
「まあまあまあ、衣都ちゃん随分と垢抜けはって」
「静枝さん、お久しぶりです!」
京都に帰ってきたのは、昨年の夏以来だった。
父に呼ばれたのは、何故か自分の家じゃなく小さい頃から私の面倒をよく見てくれた呉服屋の女将の家だった。
私は先に実家に荷物を送っていたので、バッグ1つで身軽だったが、その軽いバッグでさえ静枝さんがひょいと預かってくれて、奥の部屋へ案内してくれた。
「今日はお店が休みの日でね、私の旦那も衣都ちゃんに会うの楽しみにしてはるんよ」
「えっ、省三さんがですか!」
「ふふ、衣都ちゃんに会いたくって仕方がないみたいで。お得意様にお品物を届けてるから今は家にいいひんけど、衣都ちゃんのお父様と一緒に帰ってくる予定なんよ」
「うわ~、なんか久々で緊張します……。でも、話ってなんなんですかね……」
「ふふ」
……静枝さんは、相変わらず美しい。
藤色の着物に、上品なまとめ髪がとても似合っている。うなじの後れ毛が色っぽくてとても素敵で、若々しくて、とても50代には見えない。
静枝さんの家に来たのは、もう4年ぶりのことだった。
微かな記憶が、お香の香りとともにぶわっと蘇り、私は懐かしい気持ちでいっぱいになった。
「うなぎの寝床」と言われる京町屋で、間口がせまく、奥行きが長い。
土間を通り、随分と歩くと、奥庭が見えてきた。
庭の手入れはとても行き届いていて、植物や苔の緑がとても濃くて綺麗だ。
「ユキヤナギが綺麗でっしゃろ」
「ユキヤナギ?」
「あの白いお花。志貴(シキ)が植えたんよ」
「え……」