呉服屋の若旦那に恋しました
刺激かあ……。
でもその発言って、どうなんだろう。
結城君はたしかにエリートだけど、都心の大手企業で働くことが一番すごいみたいに言う。結城君だけじゃなくて、私の大学の友人は殆どそういう考えだった。
私もそりゃあ大手で働くことが夢だったし、内定が取れなかったから僻みが入ってしまっているのかもしれないけど……。
人の仕事を、そういう風にくらべるのって、あんまり私は好きじゃないな。
『その日を励みにお仕事頑張らな思ってね。まあお仕事ゆうても、元々着物が好きやから、毎日楽しいんやけどね』
……ふと、中本さんの笑顔が思い浮かんだ。
チクリと胸が痛んだ。中本さんは、いつも楽しそうに仕事をしている。
バカな私にも根気強く着付けを教えてくれたし、着物に関する色々な知識を教えてくれる。
皆、自分の仕事に誇りを持っているのに、刺激がない、なんて、そんな言い方されたら、私だったら怒る。
「近衛はなんでこの仕事を選んだの?」
「え」
「大手でバリバリ働いて稼ぎたいって言ってたじゃん」
「そうだけど……」
「実はやむを得ない家の都合とか?」
「……」
なんでこの仕事を選んだの?
ただ理由を聞かれただけなのに、まるで理解できないと言われたように感じた。
自分が望んだ職業じゃないし、かなり強引だったし、今も大手で働くことに憧れはあるし、結城君が言いたいことは、分かるけれど。
……中本さんの笑顔がちらつく。
私もつい最近まで、結城君と同じ考えだったくせに。今も浅葱屋で働くことをちゃんと決心しきれていないというのに。
私はここで結城君に何か言い返す権利はない。