呉服屋の若旦那に恋しました



……ずっと縁石に座って話を聞いていたが、私はすっと立ち上がった。


「やっぱ遠いね、なんか」

「だから東京戻って来いって」

「うーん」


遠いよ。

なんだか、たった数か月会っていなかっただけなのに、距離を感じた。


「皆のとこ戻ろ」


そう言って、私は結城君と一緒に席に戻った。

戻ってくるのが遅かったせいで色々と冷やかされたけど、私は笑ってそれを流した。

少し酔い始めた結城君は席に戻っても何回も東京に戻って来いと言った。

だけど私は、否定も肯定もしなかった。笑うことしかできなかった。

やり場のない気持ちとは、こういうことを言うんだな……。


皆のことは好きだし、会えてすごくうれしいのに、一方的に心理的距離を感じてしまうのは、何故?


私は、そんな気持ちが表情に出ないように、ずっとにこにこしていた。

居酒屋を出て、皆には一緒にホテルに遊びに来るよう誘われたが、明日は仕事があるから、と言って別れた。

結城君にはかなり必死に帰るのを止められたけど、なんとか振り切って帰った。


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