呉服屋の若旦那に恋しました
第二章
ライバル??
“衣都、ほんのちびっとん間やけ、志貴君と距離をあけられへんか? 志貴君に、頑張る時間を与えてやってくれんか?”
4年前に父に言われた言葉を思い出した。
高校生だった私は、その言葉の意味が、全く分からなかった。
少しの間だけ、志貴君とは会えなくなると。距離をあけてほしいと。そう、頼まれた。
何故今更距離をおかなければならないのか。
私は疑問でいっぱいだったが、父のその表情を見た時、“大人の事情”ってやつなのだと、17歳ながらに、納得した。
志貴と会えなかった4年間、志貴は、一体何をしていたのだろう。
「お客様はとても色が白いので、何色を着ても映えると思いますよ。でも私的には、こちらの藤色の上品な浴衣が、お客様の気品溢れるイメージに合うと思われます」
「ま、まあ、そうかしら……」
「ええ、とても。帯は少し暗くて深みのある紫紺系のものにして……髪飾りはこの間お買い上げになられたかんざしが、凄く合うと思いますよ」
「志貴さんにそう言われるとなあ……」
「ああいえ、もちろんお迷いでしたらまた次回お気軽にお尋ねください。すみません、ただ、お客様に似合う浴衣のイメージが勝手にわいてしまって…」
「志貴さんは本当に口が上手いわあ」
「今日着てらっしゃるお着物もとてもお似合いですよ」
「もうーほんまかなわんわあ」
……京都のマダムキラー浅葱志貴、と呼ばれてることを、昨日中本さんに教えてもらった。
他にも着物王子だの3代目貴公子だの……お客さんは皆志貴の営業スマイルに騙されているらしい。
私は0円じゃない営業スマイルをふりまいている志貴を白い目で見ながら、棚を掃除していた。
基本この店に来るお客様は裕福な人が多い。
そんなセレブな奥様達が志貴の一言で綺麗になれるなら、それはそれで凄くいいことなのかもだけど……。
私は声を大にして言いたい。