呉服屋の若旦那に恋しました
そこにいる浅葱志貴はプライベートじゃそんな風に笑わないし潔癖症だし完璧主義だし短気ですよ、と言いたい。
「おい衣都、なんだその掃除の仕方は!」
お客様が帰った途端、志貴は一瞬で表情を変えた。
そして、私が拭いていた棚の上をつっと指でなぞってみせた。
「見えるか、これは埃だ、埃! ちゃんと角まで拭きなさい」
「見えないし」
「いいか、棚は丸くないんだ、四角いんだ! 衣都の拭き方だと角までちゃんと拭けてないんだよ!」
「もう本当姑、潔癖! ハゲ!」
「残念でしたー、俺は家系的に禿げませんー」
「神経質すぎて禿げるんじゃないの志貴の代から」
「俺は自分の子供にそんな悲しい未来は与えんっ」
「あ、お客さん」
「おこしやす」
志貴は私の言葉に瞬時に入り口を振り返り表情も変えた。末恐ろしい商い魂……。
やってきたお客さんは、志貴と同い年くらいの綺麗な女性だった。
まさかこの人も志貴のファンの一人なのだろうか……。
いや、でもなんかこの人どこかで見たことあるような……?
「志貴さん、お久しぶりです」
「美鈴さん、お久しぶりです。この間お母様が来て下さいましたよ」
「やだ、恥ずかしい…、何か変なこと言ってませんでしたか?」
「はは、大丈夫ですよ」
美鈴……美鈴さん…、もしかして、この間のお見合い写真のあの女性?
巣鴨さんの、娘さんご本人……?
2カ月くらい前の話を、私は必死に思い出していた。確か巣鴨美鈴さんと書いてあった気がする……。
だとしたら、彼女は志貴と同い年だ。
濡れたように艶やかな長くて黒い髪の毛を内巻きにして、自分の魅力を存分に引き立たせる色合いのワンピースを着ている。
顔立ちは間違いなく綺麗系で、すっと通った鼻筋や、きりっとした目元が知的で大人な印象を与えていた。
私がじっと観察しているうちに、美鈴さんは、菓子折りのようなものを志貴に手渡した。