呉服屋の若旦那に恋しました
「これ、凛々堂の水菓子なんです。お口に合うか分かりませんが……」
「え、これ中々売り切れて買えない奴ですよね……? いいんですか?」
「ええ、志貴さんが水菓子お好きだと聞いたので……」
「すみません、ありがとうございます……。あ、どうぞ、こっち座ってください。お茶出しますんで」
「やだ、おかまいなく」
「すぐ準備しますので。衣都、お茶を……」
志貴の言葉にハッとして、私はすぐに返事をしてお茶の用意をしに一旦店の奥に行った。
志貴もこっちにやってきて、一緒にお茶菓子の用意をした。
「あの人、お見合い写真の人ですよね……?」
「ああ、そうだよ。よく覚えてたな」
「実物の方が綺麗ですね」
「まあ、そうだな。綺麗だと思うよ」
「……」
志貴があまりにもさらっと言ったので、なんだか少しドキッとしてしまった。
志貴が女性のことを褒めるのを、初めて聞いたから。
少しかたまっていると、志貴にはやく湯を沸かせと怒られた。
「美鈴さんはほうじ茶が好きだから、あと少し熱めで淹れて」
「う、うん」
「栗羊羹あったっけ、あ、あった。お湯わいたら、これ一緒に持ってきて。先に美鈴さんところ戻ってるから」
「分かった」
こんなふうに手厚くお客様をお迎えすることは初めてだったので、すこし戸惑ってしまった。
志貴が美鈴さんの好みを把握していることから、美鈴さんがふつうのお客様と違うことはすぐに分かる。
長い付き合いなのだろうか……。
私は、少しもやもやした気持ちを抱えながら、お茶を用意した。