呉服屋の若旦那に恋しました
「どうぞ」
緊張しながら恐る恐るふたりの間にお茶とお茶菓子を置いた。
「まあ、ありがとう」
「紹介します、彼女は今年の春からここで働くことになった近衛衣都です。彼女のお父様の作品もこちらで売らせて頂いて、お世話になってるんです」
「そうなんですか、ああ、以前言ってらした藍染職人の……?」
「そうです、その娘さんです。彼女とは昔からの長い付き合いで……」
「妹さんのような存在なんですね。可愛らしいわ」
「すこし気性が荒いですけどね。まあ仲良くしてあげてください」
「まあ、ひどい人。そんなことないわよね、衣都ちゃん?」
思い切り志貴に反論しようとしていたけれど、上品にそう聞き返されてしまったので、なにも言えなくなってしまった。
私はぎこちなく笑うことしかできなかった。
な、なんて敷居の高いふたりなんだ……。
私が必死に上品ぶった格好をしてもこうはなれない……。
美し過ぎる……普段志貴をかっこいいと思ったことは無いけど、こうして美鈴さんといると素敵な男性に見えてくる…お似合いってこういうことを言うんだろう。
私は、じっとふたりのことを見つめてしまった。
そしてついうっかり、思ったことをぽろっと言ってしまった。
「なんか、お似合いですね」
嫌味とかそういう感じで言ったわけじゃない。
本当に本音がぽろっと出てしまったんだ。
志貴はすぐに、何言ってんだ美鈴さんに失礼だろ、と私の頭をぽこっと叩いたけど、美鈴さんは照れ笑いをしていた。
「衣都ちゃんって面白いのね。よろしくね」
「あ、こちらこそ宜しくお願いします」
「私ずっと東京に住んでいたのだけれど、父がいる京都に戻ってきたの。衣都ちゃんも確かそうよね? 一緒ね、なんだか嬉しいわ」
「わ、そうなんですか。東京では何をしてたんですか?」
「モデルの仕事を少しね……、でももう疲れちゃって、こっちで着物教室をやっているの」
……生きてる世界が違う。
私は一瞬でそう悟った。私みたいな小娘が会話していいレベルの女性じゃない。うん。
教養も美も何もかももうすでに完成されている。
志貴はこういう人と結婚した方がいいんじゃないのかな……。美鈴さんと一緒にいたら志貴も怒鳴ったりしなくてすみそうだし……。