呉服屋の若旦那に恋しました
「……で? 話の続きは?」
と、耳元で囁いた。
私は、少し速くなった鼓動に気付かれないように、どもりながら答えた。
「謝りたかったの、昔のこと……」
「ふ、またかよ」
「この前のとは謝罪のレベルが違うの」
「なんじゃそりゃ」
「志貴に、嫌われるかもしれないの」
「………」
「私、怖くて、それが、すごく……」
「衣都」
「……はい」
「衣都、俺は、例え衣都にどんなに理不尽なことをされても、怒らないよ」
「どうして……? どうして志貴はそんなに優しくしてくれるの……?」
「どうしてやと思う?」
「……」
「なあ、衣都、どうしてやと思う?」
志貴が、優しく私の肩を掴んで、じっと私の瞳を見つめた。
…彼の、少し茶色い瞳に、困惑した表情の私が映っている。
志貴は、そんな私の頬を撫でて、苦笑した。
「分からないのか? 衣都」
「え」
「俺の中で、衣都がどんな深い所に存在してるのか、まだ分からないのか?」
「……志貴……?」
「……アホ面」
志貴の真剣な表情に驚いて、戸惑っていると、お馴染みのチョップが頭に直撃した。
いつも志貴の行動や言動を理解する前に何かされるから、私はいつも思考回路が追いつかない。
私が痛みを堪えているうちに志貴はすくっと立ち上がり、突然持っていた紙袋を私の目の前に置いた。
なんだか見覚えのある紙袋だった。