呉服屋の若旦那に恋しました
衣都との未来が欲しい
志貴兄ちゃん、これ、志貴兄ちゃんのために糸を縒ったの。
衣都と、志貴兄ちゃんの赤い糸が、ずーっと切れませんようにって。
衣都は、志貴兄ちゃんと結婚するの。
「……夏祭りの為に、浴衣の着付けを知りたいという生徒さんがやはり増えまして」
「年代的にはどんな感じですかね」
「そうですね、最近はお若い方が多くて……、20代後半から30代の生徒さんが一番多いです」
「なるほど……」
外に出るのが嫌になる真夏の午後。
この前までとはうってかわって、空はからりと晴れ渡っていた。
俺は、美鈴さんと仕事の話をするために、美鈴さんの自宅にお邪魔していた。
美鈴さんの実家は、古いけどとても趣のある大きな家だった。
大きな門を通り抜けると、立派な庭が広がっていた。向日葵やオシロイバナやゼラニウム……ゴーヤの蔦は縁側から二階の窓まで伸びている。
深みのある緑が多い俺の家とは違い、鮮やかでカラフルなお花が沢山植えられていた。
木の根元には灰色の玉砂利が敷かれていて、門から玄関まで続く大理石の道は、ピカピカに磨かれていた。
大理石の道を通って、引き戸を開けて中に入ると、ふわっと木のあたたかい香りがした。
玄関はとても広く、他の家よりかなり段差が高かったので、腰かけるにはちょうど良かった。
美鈴さんが敷いてくれた座布団の上に座り、そのまま玄関で仕事の話を始めた。
美鈴さんが出してくれた麦茶が、キンキンに冷えていたお陰か、それとも藍胎漆器の受け皿や切子のグラスのお陰なのか、とても涼やかで美味しく感じた。
一緒に出された抹茶味の水羊羹を、俺は早々に食べ終えてしまった。
「お陰様で、美鈴さんの生徒さんが最近よくこちらに足を運んでくれまして……」
「まあ、それは浅葱屋の常連としても嬉しいわ」
「美鈴さんの紹介で来て下さったお客様には何かサービスをしたいので、ぜひそのこともお伝えください」
「分かりました。きっと皆喜びますよ」