呉服屋の若旦那に恋しました
薄紅色の上品なワンピースを着た美鈴さんが、目を細めた。
胸まである黒くて長い髪を右側だけにかき分けて、美鈴さんが浴衣のカタログをじっと見つめた。
彼女は、どれも綺麗だけど、とくに伝統的な総絞りの浴衣が好きだと言う。
かなり悩んでいたが、着物教室で使ってくれる浴衣を3点決めてもらった。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。来週の火曜日にお届けしに行きます。色々ごちそうさまでした」
そう言って俺は立ち上がった。
すると、美鈴さんが慌てて俺のことを呼び止めた。
「あの」
「はい」
「今日、定休日ですよね。この後、なにか御用事とかなければご一緒にお食事でも……」
「あ、すみません……、今日この後温泉に行く予定がありまして……」
「え、お、温泉ですか……?」
俺の申し訳なさそうな返答に、美鈴さんは少し目を丸くした。
「はい、すみません……また今度こちらから誘わせてください」
「あ、いえいえ……、ご家族で行かれるんですか?」
「いえまさか。丁度栃木で私用がありまして、そのついでに行く感じです」
「おひとりで行かれるのですか? それはまた寂しいですね……」
「あ、いえ、この前紹介した近衛と一緒に行きます。幼馴染の……」
「え、あ、衣都ちゃんですか……? お二人で、行かれるのですか……?」
「お土産買ってきますね。では、新幹線の時間が迫っているのでこの辺で」
「…………」