呉服屋の若旦那に恋しました
「あ、アンナさんと?」
「アンナ誰だよ。衣都とだよ」
「いと……」
「お前22年間生きてきてまだ自分の変わった名前しっくりきてねーのか」
「違うよ! 確かに変わってるけど…って何してるの勝手に指輪はめないで!!」
「ちっ」
私は、どさくさにはめられた指輪をすぐに抜いて志貴に押し返した。
と、そこに足音と笑い声が近づいてきた。
「あらまあ、仲がよろしおすなあ」
「衣都ちゃん、達者やったか?」
「静枝さん、省三さん! これは一体どういうことですか!?」
目をカッと開いて問いかけると、2人は和やかに笑った。
そんな2人の背後から、難しい顔をしたお父さんが出てきた。
「衣都………………そういうことだ!」
「何その間!? 無駄だよね!? どういうこと!?」
「お前相変わらずツッコミ鋭いなあ」
志貴が隣で感心したように呟いた。
私は、そんな志貴とは正反対に、大パニックだった。
「お父さん、結婚ってなに!? まさか重要な話ってこれのこと!?」
「そうだ、藍染の伝統と、近衛家の未来のために、志貴君と結婚してくれ」
「はい!?」
「分かるやろう…、藍染の作品は、今は浅葱屋の支え無しでは売れへんのや。呉服屋である浅葱屋から仕事の依頼を貰い、染める。それで近衛家が成り立っていたことは知ってるやろう」
「それってつまり、政略結婚ってやつ……?」
「そうゆうことや」
「はい?!」