呉服屋の若旦那に恋しました
こんなに愛おしいものがこの世に生まれてしまったら、もう何が起きてもこの子を守るために生き抜くしかないじゃないか。
本気でそう思ったんだ。
……俺はきっと、既にあの時覚悟をしていた。
理由は分からない。でも本能が、この子を守れと命令したんだ。
それはこの先の運命を、予想してのことだったのかもしれないけれど。
「衣都……」
「し、き……え」
「黙って」
流れるように、口づけをした。
衣都が手に持っていた水を、キスをしながらテーブルに置いて、徐々に体勢を倒した。
視界が90度変わって、衣都の髪が畳の上に散らばった。
「ま、待って、どうしたの?」
「……衣都と」
「え……?」
「衣都と一緒にいれる未来が、俺は欲しい……」
「志貴……?」
指を絡め取って、温度を確かめた。
わかれた前髪の間からのぞく額に、キスをした。それから、衣都の瞳を見つめて、唇に移動し、もう一度口づけた。
もう触れるようなキスだけでは、抑えきれなかった。
――この愛を、誰かが依存と呼ぶのなら、それはそれでいい。
愛情が深ければ深いほど、離れた時の傷跡も深くなるのは十分わかってる。
……でも、それでいい。それでいいんだ。
だって、もし衣都が俺から離れて、何も傷跡が残らなかったら、虚しいじゃないか。
……俺は、愛を、傷を、深めあうように、キスをした。
そして、衣都の未来に俺がいることを、切に願った。