呉服屋の若旦那に恋しました
意識と嫉妬
「衣都と一緒にいれる未来が、俺は欲しい……」
気付いたら視界が90度変わっていて、真上には切なげな瞳をした志貴がいた。
私は、今までそれなりに男性とお付き合いをしてきたし、キスをすることももちろん初めてじゃなかった筈なのに。
今までしてきたどんなキスよりも優しくて、脳まで侵されていくような感覚に陥った。
ドキドキする、という感覚を、もしかしたら私は今の今まで知らなかったのかもしれない。
今までドキドキしてきたことは、今のこの状況にくらべたら比じゃないと、そう確実に言える。
……志貴の、余裕のない表情が、妙に色っぽくて、私はもうどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
絡み合った指や、時折漏れる息や、私を求めている瞳。
キスの上手い下手なんて、ただ唇が触れてるだけなのに分かる筈ないだろうって今まで思っていたけど、その考えは覆された。
自分のことしか考えられなくさせるようなキス。
そういうキスを、私は生まれてはじめて体験した。
もう、志貴を男の人として意識できないわけが無かった。