呉服屋の若旦那に恋しました
だとしたら、今こんなにあなたのせいで心が乱されている私は、バカみたいじゃないか。
“衣都と一緒にいれる未来が、俺は欲しい”。
あの言葉の真意はなに?
どうしてあんなキスをしたの?
本当は、私のことをどう思ってるの?
ねぇ、志貴、教えて。
じーわじーわという何かの虫の鳴き声が、外から聞こえてくる。
真夏のうだるようなべっとりとした暑さが、寝苦しくさせた。
お風呂に入り、早々に布団に潜り込んだはいいものの、暑くてとてもじゃないけど寝れなかった。
この部屋にエアコンはないから、扇風機しか頼るものが無い。
私は、Tシャツにハーパンという格好で、布団も何もかも蹴飛ばして寝転がっていた。
「あっつい……」
じーわじーわという虫の鳴き声が、余計に暑さを助長する。
志貴は、美鈴さんと仕事の話をするために、今さっき彼女の家へ向かった。ついでに温泉旅行でのお土産も渡すと言っていた。
美鈴さんは、ここから歩いて10分くらいのところに住んでいるらしい。
場所を聞くと、そこは私が高校時代通っていた予備校の近くで、とても慣れ親しんだ場所だった。
「……いつ帰ってくるのかな」
……本当にあの二人は何もないのだろうか。
少なくとも美鈴さんは、分かりやすく志貴に好意を寄せてる。
眠れない。余計なことを考えてしまう。
私はのどの渇きを感じて、お茶を飲むために台所へ向かった。
縁側に出ると、五郎も暑いのか、ぐったりとしていた。けれど、私を見た瞬間、のろのろとこちらに近づいてきた。
「五郎、暑いねえ。今新しいお水持ってきてあげるからね」