呉服屋の若旦那に恋しました
ハッハッと呼吸を荒くしている五郎。
顔を両手で包み込んでから、額から背中までゆっくりと撫でた。五郎は気持ちよさそうにしていた。
あまり吠えなくて大人しい犬なのに、飼い主を見ると、必ずそばに来てくれる。
「五郎は、可愛いねえ」
背中を優しくなでながら呟いた。
「五郎は、私のこと、好き?」
そう問いかけても、当たり前だけど五郎は呼吸を荒くしているだけだった。
……私も志貴に、それくらいスパッと聞けたらいいのに。
私のことを好き? って。
……そしたら志貴は、なんて言うのかな。
きっと動揺するだろう。何言ってんだって流されるかもしれない。
じゃあ、逆に、私が聞かれたらどうなるだろう。
志貴に、俺のことを好き? と聞かれたら、私はなんて答えるのかな。
「……五郎は、志貴を好き?」
くぅーんと細い声で五郎が鳴いた。
なんだかいつもより少し元気が無い私を心配してくれているのだろうか。
五郎が、私の手にすり寄ってきた。
私は、五郎を抱きしめて、ふかふかの毛に顔を埋めた。
「私は、志貴にハマるのが、ちょっと怖いんだ……」
……本音がぽろっと零れ落ちた。
五郎が、また細い声でくぅーんと鳴いた。
怖いよ。だって志貴は、まだ私のことを一度も好きだと言ってくれたことはない。
彼を好きになってしまったら、もう取り返しのつかない所までハマってしまうのが目に見えてる。