呉服屋の若旦那に恋しました
……志貴が、今まで付き合ってきた女の子も、志貴にハマり過ぎて、最後は必ず女の子側だけが泣いていた。
彼の恋愛事情のすべては知らないけれど、私が知っている限りでは、女の子側の気持ちが大きすぎるように見えた。
私は幼いながらに、志貴は危険な男だと感じていた。
付き合っても自分のものにならないような、そんな気がする。
自分の深いところまでは見せずに、一定の距離を保って付き合う。志貴はそういう男だった。
深い部分を、彼は私に見せてくれるだろうか。
生まれた時から一緒にいても、私は、まだ志貴の深い部分を見ていない。
この間、少し垣間見たような気がしたけれど、あれはまだほんの一部のような気がする。
志貴は、弱っている姿を人に見せないから。
「水、かえてくるね」
私は、五郎の水を替えるために、犬用のお皿を取って、台所へ向かった。
しかし志貴の部屋の前を通った時、紙袋が置かれていることに気付いた。
まさか……と思って手に取ると、それは志貴が美鈴さんに渡す予定だったお土産だった。
「バカだー」
私はかなり呆れた声を出した。
消費期限がそろそろ近いから必ず今日渡さなきゃ、と言っていたのに……。
どうしよう……美鈴さんの家の場所も大体わかるし、持って行った方が良いのかな。
「と、とりあえず五郎に水」
私は、五郎に水をあげてから10分くらい悩んで、美鈴さんの家まで届けに行くことにした。