呉服屋の若旦那に恋しました
私が通っていた予備校の近くだから、もしかしたら見かけたことがある家かもしれない。
私は、私服に着替えて昔の記憶をたどって、美鈴さんの家を目指した。
一応志貴にLINEを送ってみたが、やはり仕事の話中なので既読マークはつかなかった。
「あ、ここだ」
家から歩いて約10分。私は高校生の時通っていた予備校を発見した。
志貴の話によると、美鈴さんの家はこの辺にあるはずだ。とても大きい家だと聞いた。
時間はもう21時。辺りは暗く、家を判別するには少し困難だった。
「あ」
でも、数メートル先に志貴の車を発見した。
よくよく目をこらしてみると、かなり大きな家の前に停まっていた。
本当に分かりやすい豪邸だった。
私は、少し小走りで美鈴さんの家に近づいた。
「ここ、美鈴さんの家だったんだ……」
彼女の家は、近所では少し有名な豪邸だった。
私は恐る恐る近づいて、開いていた門からそっと中を覗いた。
どうやら2人は玄関で話しているようで、耳を澄ますとわずかに二人の会話が聞こえた。
「い、行き辛い……」
真剣に仕事の話をしているので、割って入れるような空気じゃなかった。
……美鈴さんは、遠くから見ても相変わらず美しかった。
気品と余裕があって、大人の魅力で溢れている。
背伸びしている私とは、全く大違いだ。
…おかしな話だ。ついこの前までは美鈴さんと結婚すればいいのに、なんて志貴に言っていたのに、今は彼女に対して少し嫉妬めいた感情を抱いているなんて。
「……では、遅くまで失礼しました」
「いえ、こちらこそ。こんな遅い時間にしか空けれずすみません……」
「とんでもないです。家も近いですし、仕事終わりで寧ろちょうどいいですよ」