お姫様を捜す前に
「伊織さまなら大丈夫です」
「いやいや、お前ら俺を利用してるだろ…」
微笑みもしないで、お弁当箱を伊織に渡す東。
西は俺とたまきにペコリと笑顔で挨拶してくれた。
「日向さまにたまきさま、どうも」
それに気づいた東も、続いて挨拶する。
「東ちゃんも西ちゃんも偉いねー、いつもいつもこうやってお弁当届けに来て…」
「いえ、伊織さまのためですから」
東と西。
本名まどかとちひろ。
お弁当を届けに来るのは、万全を期すため。
毒物でも仕込まれたら大変だ…といつもいつも心配していて、だからギリギリになって届けにくるってわけ。
伊織にはその心配が必要だから。
伊織をここまで慕うのは、訳がある。
それはまあ、『舞雪さん』ってのが絡むんだけど。
今はそれより
「何事だ!?」
この教師。
中年の太った先生は、数学の西谷。
窓ガラスが割れたことに驚いていて、普通なら怒るんだが――
「い、伊織…さま?」
「どーも。
あ、ごめんねえ、東西が割っちゃってさあ…」