お姫様を捜す前に


「伊織さまなら大丈夫です」


「いやいや、お前ら俺を利用してるだろ…」



微笑みもしないで、お弁当箱を伊織に渡す東。


西は俺とたまきにペコリと笑顔で挨拶してくれた。


「日向さまにたまきさま、どうも」

それに気づいた東も、続いて挨拶する。


「東ちゃんも西ちゃんも偉いねー、いつもいつもこうやってお弁当届けに来て…」


「いえ、伊織さまのためですから」



東と西。

本名まどかとちひろ。


お弁当を届けに来るのは、万全を期すため。


毒物でも仕込まれたら大変だ…といつもいつも心配していて、だからギリギリになって届けにくるってわけ。

伊織にはその心配が必要だから。


伊織をここまで慕うのは、訳がある。


それはまあ、『舞雪さん』ってのが絡むんだけど。



今はそれより



「何事だ!?」



この教師。


中年の太った先生は、数学の西谷。

窓ガラスが割れたことに驚いていて、普通なら怒るんだが――



「い、伊織…さま?」



「どーも。
あ、ごめんねえ、東西が割っちゃってさあ…」


< 11 / 40 >

この作品をシェア

pagetop