お姫様を捜す前に
◇◇◇
この村、飛野大野は穴場の温泉街である。
町に降りれば硫黄の匂いや昔ながらの土産屋などがある、表向きは活気のある村だ。
が。
この村は、異常でもある。
―――飛野大野にはある伝説がある。
昔、国家を揺るがす傾国の美女として名を馳せた、ある悲しい妖孤の伝説が。
妖孤は、玉藻前、白面金毛九尾、九尾の狐、ミズクメ、華陽夫人――さまざまな名をもつ。
主に日本、中国、インドで活動しており、日本では玉藻前と呼ばれる。
玉藻前は昔、この国を滅ぼす寸前まで追いやった。
その美貌と力で。
まだ武士もいない時代、天皇を虜にした玉藻前。
その名の通り水で己の形を作り、ある少女を殺して入れ換わって皇居に忍び込んだ。
そしてその天皇を虜にし、邪眼で呪い殺そうとした。
が、陰陽師阿部の清明がその存在を見破り、玉藻前の化けの皮を剥がし一匹の狐にした。
たちまち国家反逆罪に問われ、追われの見になった玉藻前は那須の方へ逃げ込んだ。
軍総出で玉藻前を退治にいくが、玉藻前に敵わず敗退。
二回目の軍を出し、そこでようやく玉藻前を追い詰めることに成功した。
神でもある玉藻前は霊力を奪われたため肉体を維持できなくなった。
そして玉藻前は、ある石に逃げ込んだのだ。
殺生石という、呪いそのものの石に。