お姫様を捜す前に
◇◇◇
朝。
待ち合わせはいつも、大きなハシバミの木の下。
ハシバミにしては大きいその木の下は、伊織のお気に入り。
だから小学校の時もここが待ち合わせだった。
「伊織ぃっ」
私は、大好きな伊織を目指して走った。
毎朝一緒に通学してるから。
似合わないブレザーを着ながら、ふあ…とあくびを一つ。
「はよ」
悪戯っ子みたいに笑って、私の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「あー!
酷い伊織!朝セットしてきたのにいっ!」
ショートヘアーの私は寝癖がつきやすく、毎朝尋常な努力をしてる、助けて。
「セットなんかする必要なくねー?」
「あるの!」
伊織はちょっと天パなだけでサラサラだから、わからないんだ。
毎朝伊織に会うの、いつも緊張してるんだから…
寝癖に幻滅されたら嫌だ。
いつも一番の私を伊織には見ていてほしい。
だから…
「何むきになってんだよー」
ハハハ、と間延びした声で笑う。
伊織にはわからないんだ。
ぷん、とムカついてそっぽをむく。